■最終更新日:2025.12.23
門松の主役「竹」は、実はお米と同じ「イネ科」だった
毎日の食卓に欠かせないお米は、日本人の暮らしと切っても切れない存在です。
そんな「イネ(稲)」という植物について考えていたとき、ふと間近に控えた正月の風景が頭に浮かびました。今では見かけることも少なくなってきましたが、お正月に玄関先に立つ「門松」。その中心に使われている「竹」が、実はお米と同じ仲間だということをご存じでしょうか?
竹は木ではありません。今年も大きな話題となった、お米と同じ「イネ科」の植物です。
今回は、米価格の高騰という身近な話題をきっかけに、竹とイネの意外な共通点、そして門松に竹が使われてきた理由を、植物学の視点から掘り下げてみたいと思います。

米の高騰で改めて注目される「イネ(稲)」という植物
2024年「令和の米騒動」とも呼ばれるお米の価格上昇をきっかけに、お米の生産や流通、その販売価格がニュースで取り上げられる機会が一気に増えました。
普段は意識せずに食べているお米ですが、実は気候や作付面積、労働力など、さまざまな条件に支えられて成り立っています。
日本は古くから稲作を中心に文化を築いてきました。日本での稲作の始まり自体は、紀元前10~5世紀ごろの弥生時代だと言われています。それ以降、年中行事や祭りといったイベントや、文献の中にも「実り」や「豊作」を願う歌や表現が数多く残っています。イネは単なる作物ではなく、日本人の価値観や季節感を形づくってきた植物とも言える存在です。

竹は木ではない。実はお米と同じイネ科。
竹と聞くと、多くの人は「立派な木」というイメージを持つと思います。背が高く、幹がまっすぐで、切れば丈夫な竹材として使える…。見た目が少し違うので「特殊な木なのかな?」と思うかも知れません。しかし、植物学的には竹は樹木ではありません。
■分類で見る竹の正体
竹の分類はwikipediaによると、次のように書かれています。
”イネ目イネ科に属する植物のうち、木本ように茎(稈)が木質化する種の総称”
つまり竹は、稲や麦やトウモロコシなどと同じ「イネ科植物」であり、その茎が木のように硬くなったものです。言い換えるなら、竹は「巨大に成長した草」であると言えます。
稲、麦、トウモロコシ。この3つを並べてみると「世界三大穀物」であることに気付くと思います。
世界の人口の多くを支える主食であり、農業分野で特に重要視されている3つの作物たちと、竹は仲間だと言える植物なのです。
イネ科であることに由来する竹の特徴
竹はイネ科であるため、一般的な木とは異なる特徴を持ちます。
1. 木ではなく「草」の仲間
竹は見た目こそ木のようですが、分類上はイネ科の多年草です。そのため、スギやマツのように太くなり続けることはなく、伸び切った時点で太さや硬さがほぼ決まります。成長後に年輪が増えない点は、木本植物との大きな違いです。
2. 節のある中空構造
イネ科植物に共通する特徴として、節(ふし)を持つ茎があります。竹の茎は節ごとに仕切られた中空構造で、軽くて丈夫、かつしなやかです。この構造は、風を受け流す性質にもつながっています。
3. 成長が非常に早い
イネ科植物は生長点が茎の基部付近にあり、上に伸びる力が強い植物です。竹が短期間で一気に伸びるのも、このイネ科特有の成長様式によるものです。
驚くことに1日で121cm伸びたという記録もあります。ちなみに5歳半になる筆者の息子の身長が丁度121cmです。
参考:林野庁「竹の性質」
https://www.rinya.maff.go.jp/j/tokuyou/take/
4. 切っても状態が安定しやすい
イネ科の茎は繊維が縦方向に整っており、水分の保持や形状の安定性に優れています。そのため、切り出された竹でも急激にしおれにくく、門松のような装飾にも適しています。
門松に竹が選ばれた本当の理由
門松は「縁起物」として知られていますが、実際には非常に実用的な植物選びがされています。
■門松を飾る理由
まず、お正月に門松を飾る理由について、大きく二つの理由があります。
一つ目は、年神様が家を訪れる際の目印となり、自宅まで迷わず来てもらうためです。
二つ目は、年神様が家に降りてくる際の依り代(よりしろ)としての役割です。
縁起物というより、「ここに来てください」と示す案内標識の役割であったり、「神様の宿る場所」としての意味合いを門松はもっています。
■竹は冬でも状態が安定している
竹が冬でも状態を保ちやすいのは、切られた後も茎そのものが安定している構造を持っているためです。竹の茎は内部が空洞で、節ごとに仕切られた構造になっており、寒さによる膨張や収縮の影響を受けにくくなっています。
また、木のように年輪で成長するのではなく、伸び切った時点で硬さが決まるため、冬になっても急激に劣化しにくいのが特徴です。そのため、門松に使われた竹は、寒い正月の時期でも形が崩れにくく、青々とした姿を保ちやすいのです。
■「縁起が良い」より先に「強い植物」(松竹梅の共通点)
門松に使われる「竹」、「松」、「梅」はいずれも、厳しい冬を越える力を持った植物です。
昔は今のような保存技術はありませんでした。それでも正月の間、青々とした姿を保てる植物が必要でした。
竹はイネ科で、構造的に枯れにくい。松は常緑樹で、寒さに強い。梅も寒い冬に咲く花です。
門松に使われる植物は、見た目の縁起だけでなく、自然の中で生き残る力を持っていたのです。門松は、単なる飾りではなく、「自然の中で生き抜く力」を可視化した存在だったとも考えられます。
余談?竹は地下茎により繁殖する
タケノコが一斉に生えてくるように、同じ物事が勢いよく続くことを「雨後の筍」と言いますが、竹がどのように繁殖しているかご存知でしょうか?
■竹は地下茎により増える
実は竹は、強力な雑草として知られる「スギナ」や「ドクダミ」と同じく地下茎で広がる植物です。
地上に伸びる竹や茎は、地下に張り巡らされた地下茎から芽として現れたもので、春に顔を出すタケノコもその一部です。
タケノコは種から発芽したものではなく、地下茎の節から直接伸びてきます。スギナやドクダミも同様に、地下で茎が横に伸び一定の間隔で新しい芽を地上に出します。

■竹は花を咲かせると竹全体が一斉に枯れる
植物の繁殖と言えば、やはり花や種子を連想すると思います。
しかし、竹の花を見る機会というのはなかなか得ることができません。というのも、実は竹の花が咲くのは数十年~百数十年に一度というとても長い周期だと言われています。事実、筆者も竹林の中で育ったような人間ですが、思えば竹の花を見たことがありません。
しかも、竹の花は長い開花周期を経て一斉に開花し、その後竹林全体が枯れてしまうという非常に珍しい現象で、観測も難しいそうです。

まとめ
近年続く米の高騰は、私たちの食卓だけでなく、日本の農業や文化の背景に目を向けるきっかけにもなっています。
その米と同じイネ科の植物が、正月飾りである門松の主役となる竹です。竹は木のような見た目から樹木だと思われがちですが、実は稲や麦と同じ草の仲間という意外な一面を持っています。節のある構造や成長の早さといったイネ科特有の性質が、門松に使われる竹の姿にも表れています。
日本の稲作は弥生時代にはじまり、多くの正月行事は「豊作祈願」がその中心となってきました。
門松=弥生以来続く「稲作文化の延長線」であり、正月飾りの門松の主役となる竹が「イネ科」であることが、偶然であるとは一概に言えないと思います。
米の価格が話題になる今だからこそ、門松の竹を通して、私たちの暮らしがイネ科植物と深く結びついてきた歴史を、改めて感じてみるのも良いのではないでしょうか?

東京戸張株式会社のWEB担当。
兼業農家に生まれ、家庭菜園と米づくりの経験は20年近くとなる。
副業でミミズを育て売るというかなり特殊な父親に育てられた。
土いじりもパソコンいじりも好き。だが、この世界で最も嫌いなものはきゅうり。














