■最終更新日:2025.12.4
人里のクマ|住宅まわりの「クマ対策」と安全行動ガイド
2025年、全国で増加するクマ被害
近年、日本全国でクマによる被害が急増しています。2025年には、クマによる人身被害の件数や死亡事故が過去最多を大幅に更新しており、山あいに限らず市街地や人里近くでの目撃例も相次いで報告されています。
「うちの近くは大丈夫」── そう安心できていた地域でも、クマは意外な形で“身近”に現れるようになりました。特に果樹を育てていたり、飼料や米を保管していたりする農家・家庭では、クマがにおいや食欲を頼りに近づいてしまう可能性があります。
この記事では、家庭や農地のまわりでできる“クマを引き寄せない対策”を中心に解説します。
大切なのは「慌てず」「日頃からできる備え」を整えることです。

クマが民家近くに来る理由と現状
令和7年のクマ被害は、日本全国で死亡事故13件(令和7年11月28日時点での発表値)、怪我などの被害人数197件(令和7年11月19日時点での発表値)となっています。過去数年の記録と比較すると、死亡事故数が多くなっています。
日本に生息するクマは北海道ではヒグマ、青森以南ではツキノワグマと種類が異なり、特に被害が増えているのはツキノワグマです。

事故が増えている背景のひとつに、目撃されたクマの多くは“餌場を求めて人里に降りてきている”と分析されており、果樹・農作物・家庭ゴミなどが誘引源になりやすいとされています。
かつてはクマの生息域とされた山だけでなく、集落近く・住宅地近隣でも目撃・侵入例が増えており、「人間とクマの棲み分け」の形が変わってきています。
政府は「クマ被害対策パッケージ」で個体数の管理を含めた対策を講じていますが、現実には被害にあわないよう「自分の住まい・農地の問題」と捉えて対策する必要があります。
参考:首相官邸「クマ被害対策等に関する関係閣僚会議」
https://www.kantei.go.jp/jp/pages/20251114choukan_kuma.html
参考:環境省「クマに関する各種情報・取組」
https://www.env.go.jp/nature/choju/effort/effort12/effort12.html
家の近くにあると危険なものと、その対策
家庭や農地のまわりにある「クマにとって魅力的」なもの。
山にはない食料、または簡単に手に入ると学習したものを求めてクマが民家に近づくことが増えています。
■ 果樹(柿・栗・柑橘など)
秋から冬は果実が熟す季節。甘いにおいを放つ果実は、クマにとって非常に魅力的なごちそうになります。また、近年では地域の高齢化などで庭木に実った果実を収穫する人手がなく、放置された果実を求めてクマがやってくる事例が相次いでいます。
【対策】
・熟した実は早めに収穫。地面に落ちた実も放置せず回収。管理が難しい場合、可能であれば果樹を伐採する。
・果樹を育てる場合はネットやフェンスを設置し、果実をむき出しにしない。

■ 米・飼料・穀物類の保管庫や倉庫
米袋、乾燥穀物、飼料、餌となる殻付きのナッツなどは、クマにとって“食料倉庫”。においが周囲に漏れていたり、容易にアクセスできたりすると、その記憶で何度も近づかれやすくなります。
【対策】
・米・飼料は密閉できるコンテナや金属製倉庫で管理。
※金属の倉庫も、鉄板が薄いと破られることがあります。侵入できない建物の中などに保管することをおすすめします。
・倉庫の周囲は整頓し、においを漏らさない。
・ゴミや残飯は密閉袋や専用ボックスに入れて捨てる。生ごみを外に放置するのは厳禁。

■ クマを隠れさせない
ササやヤブ、背の高い雑草がある場所は、クマが身を隠せるため安心して通ろうとします。また、一度「安全な道だ」と学習すると何度も通るようになり、人と遭遇する可能性が高まります。庭や自宅の周囲の草は刈りこんで、見通しを良くしましょう。
■ 揮発性の強い物(灯油、オイル、ペンキなど)
意外に思うかもしれませんが、クマは食べ物だけでなく、強いにおいのする油や化学物質にも反応することがあります。例えば、エンジンオイルやガソリン、シンナーやペンキなどのにおいがクマを誘うという報告もあるのです。
なんと「ペンキぬりたて」のポールに体をこすりつけるクマの映像も残されています。
【対策】
・使い終わったオイル、灯油、ペンキの缶はしっかり密閉し、屋内収納が望ましい。
・倉庫の扉を常に施錠し、においの漏れやアクセスを遮断。

■ 生ごみ・料理の残り物・餌の残滓
家庭で出る生ごみや食品の残り香も、クマを引き寄せる要因になりやすいです。特に臭いの強い食品は要注意。においを出さないよう冷凍して保管することも有効です。
【対策】
・生ごみは二重に密閉できる袋に入れる、あるいは市指定のゴミ箱に出す。
・ゴミを屋外に放置せず、回収日まで屋内で保管。
■ 犬を外で飼育しない
クマの出没が相次ぐ東北地方では、飼い犬が襲われる痛ましい事故が多発しています。
繋がれた犬は逃げることができないほか、クマも食料を得た成功体験といて学習してしまいます。飼い犬を守るため、地域にクマを寄せ付けないためにも犬は室内に入れてあげましょう。また、犬の散歩中にクマに遭遇するケースも増えています。
【対策】
・犬は室内で飼育する(特に夜間)
・散歩は日中にし、夜間・日の出前を避ける。
・クマの移動ルートである河川近く、ヤブの近くは避けて散歩する。

参考:東京都環境局「被害を防ぐために」
https://www.kankyo.metro.tokyo.lg.jp/nature/animals_plants/
参考:福島県「飼い犬をクマから守るために」
https://www.pref.fukushima.lg.jp/sec/21045e/kaiinu-kuma.html
見かけたときの対策──その場での安全確保と通報
住宅地で不意にクマを見かけたら、まず大切なのは「落ち着くこと」と「静かに離れること」です。急に走ったり、物を投げたりするのは避けましょう。
■ 安全行動の基本
・ゆっくり後ずさりして距離をとる。クマに背を見せず、冷静に。
・撮影を優先せず、まずは安全第一でその場から離脱。
・近くに障害物(木や塀、車など)があれば、それを間に入れてクマとの距離を取るのも、突進に備えて有効です。
※不意に現れたときは、大声で威嚇するとクマを驚かせて興奮させることがあります。落ち着いて静かに対応しましょう。
クマに遭遇したときは、距離とクマの様子によって対応が異なります。
以下の知床財団の対処法を知っておくと良いでしょう。
<リンク>知床財団「出会った時は」
https://www.shiretoko.or.jp/higumanokoto/bear/bear2/
■ もしもの時に「クマスプレー」
クマスプレーはカプサイシンが入ったスプレーで、鼻や目に触れるとクマが刺激を嫌がり逃げるというものです。そのため後方から噴射しても効果は期待できず、距離も射程3~4メートルのものが多いです。
距離が近づいてしまったときの対策ですが、近隣でクマの出没がある地域にお住まいの方は手元に持っておくと良いでしょう。
※公共交通機関や施設によって持ち込みに制限がる場合がるため、携帯してどこかへ訪問の際は確認しましょう。
■ 通報のポイント
・発見時は、なるべく早く 警察(110番)または市町村の自然保護担当へ連絡。
・可能であれば「場所」「時間」「クマの数・大きさ」「どんな行動をしていたか」を伝えると、後の対策に役立ちます。
※屋内からクマを発見しても、自分で追い払おうと外に出るのはやめましょう。
参考:環境省「クマ類の出没対応マニュアル -改定版-」
https://www.env.go.jp/nature/choju/docs/docs5-4a/
まとめ「来てほしくない」を徹底する備えを
2025年現在、クマによる被害は過去最悪のペースで全国的に深刻化しています。
私たち一人ひとりにできることは、「クマを引き寄せない」「出会ったとききちんと対処する」──その備えと知識を、ひとつひとつ積み重ねることです。
・果樹・飼料・ごみなど、クマを惹きつける要因を取り除く
・揮発物や食品残渣の管理を徹底する
・倉庫やゴミ箱の管理、密閉保管を心がける
・万が一の出会いに備えて、通報先や安全行動を確認しておく
これらは特別な道具や大がかりな設備を必要とせず、“日常のちょっとした注意” でできることばかりです。

農業資材の会社に勤めつつ、東京都の小さな庭とベランダで家庭菜園に励んでいます。
ウメ、イチジク、バラ、ハーブ、サボテンなどを育てています。また、実生のカキとアボカドを実らせるべく育成中。
INTJ-A/花木に着く虫は割りばしで取るタイプです。












