キンモクセイの香りはどこから?|食べ方の文化と言葉の歴史

キンモクセイの香りはどこから?|食べ方の文化と言葉の歴史

キンモクセイの香りはどこから?|食べ方の文化と言葉の歴史

秋を告げる香り、キンモクセイ
秋の風にふっと漂う甘い香り——それがキンモクセイ(金木犀)です。街路樹や庭木として親しまれ、日本ではすっかり秋の風物詩となっていますよね。しかし日本での歴史はそれほど古くなく、歴史をたどると、中国の文化や暮らしに深く根づいた植物でもあります。
この記事では、キンモクセイの起源や特徴、似た品種との違い、そして海外での文化的な位置づけまで、幅広くご紹介します。

筆者の家でもキンモクセイが満開になりました♪

キンモクセイは月にある伝説の木?

キンモクセイの原産地は中国南部。古くは紀元前から人々に愛されてきた香りの花で、食用にも用いられます。台湾などでは「桂花(グイホア)」と呼ばれ、お茶などの薬膳食材としても親しまれています。

古くから中国ではキンモクセイは単なる観賞植物ではなく、「吉祥」「繁栄」「長寿」の象徴とされ、詩や伝説にも多く登場しました。 たとえば有名なのが、中国唐時代の随筆「酉陽雑俎(ゆうようざっそ)/巻一 – 天咫」のエピソードで、以下のように記されています。

【原文】
舊言月中有桂,有蟾蜍,故異書言月桂高五百丈,下有一人常斫之,樹創隨合。人姓吳名剛,西河人,學仙有過,謫令伐樹。

【日本語訳】※日本語訳は筆者による意訳です。
昔から「月には桂の木と蟾蜍(ヒキガエル)がいる」と言われている。そのため、異説の書物には「月の桂の木は高さ五百丈(約1500メートル)もあり、その下には常にそれを斧で切っている男がいる。木は切られてもすぐに元通りになる」とある。その男は姓を吳(ご)、名を剛(ごう)といい、西河の出身である。仙術を学んでいたが過ちを犯し、罰としてこの木を切るよう命じられたという。

中国の月の伝説といえば「月と兎」が有名ですが、「月と桂」の伝説も古くから日本でも知られています。平安時代には『拾遺抄』『万葉集』で詠まれたほか、『伊勢物語』では「月の桂のようにふれてはならない人」すなわち「桂男」として美男を表す慣用句となりました。
これらの伝説と開花時期から、中秋節(日本の十五夜にあたる行事)では、桂花の香りを添えた酒「桂花陳酒(けいかちんしゅ)」や月餅、文旦を食べる風習があります。
日本ではお月見の共はススキとお団子ですが、香り良い文旦とお花のお酒をいただくのも素敵ですよね。

月にいるのは兎か美男か…。

また、唐の詩人・王維や宋代の蘇軾(そしょく)など、数多くの文人たちが桂花を題材に詩を残しています。香りの高さと儚さが「品格」「詩情」「人生の秋」を象徴する花として詠まれ、文化的にも非常に高い位置づけを得ています。

参考:人文学オープンデータ共同利用センター「酉陽雑俎」
https://codh.rois.ac.jp/pmjt/book/200020547/

日本に伝わったキンモクセイ

私たちの身近にあるキンモクセイが日本に入ってきたのは江戸時代初期(17世紀頃)とされています。(※諸説あります。)

日本に入ってきたキンモクセイはすべて雄株であった言われています。そのため実を結ばず、今でも国内のキンモクセイは挿し木や接ぎ木で増やされています。 また、強い香りが遠くまで届くことから「千里香」と呼ばれることもあります。秋になるとどこからともなく漂う香りが人々の心を惹きつけ、日本人の「香りの記憶」として定着しました。

ちなみに、「千里香」という言葉は古典詩や文芸では、特にキンモクセイの香りに使われることが多かったのですが、それ専用ではありません。香りが強いジンチョウゲ、クチナシなどに用いるほか、現代中国では、“いい香りが広がる”というイメージワードでもあるそうです。食べ物にも使われており、筆者が以前上野で食べた中国羊肉串屋さんの店名も「千里香」でした。

香ばしいお肉の香りも、これはこれで千里香!

ギンモクセイ・ヒイラギモクセイとの違い

キンモクセイ(金木犀)、ギンモクセイ(銀木犀)、ヒイラギモクセイ(柊木犀)はいずれも「モクセイ科・モクセイ属」に分類される植物です。日本で多く植えられているキンモクセイは、ギンモクセイの亜種と言われています。

■ギンモクセイ(銀木犀)

白い花を咲かせ、香りはやや控えめ。日本では庭木としても人気。

■ヒイラギモクセイ(柊木犀)

ヒイラギとモクセイの交雑種で、白い花を咲かせ、香りはやや控えめ。葉のギザギザが特徴。防犯・目隠しにも利用されます。

ヒイラギモクセイの香りは、キンモクセイほど強くありませんが、甘い香りながらより透明感のある印象で筆者はとても好きです。香水にするならヒイラギモクセイの方が素敵かも、と思います。

食文化に息づくキンモクセイ

中国では、キンモクセイの花を乾燥させた「桂花」が食用や薬用として古くから活用されています。

桂花茶(けいかちゃ)

烏龍茶や緑茶に桂花をブレンドした香り高いお茶。消化促進・リラックス効果があるとされます。乾燥させたキンモクセイの花を好みのお茶に合わせても◎

■桂花糕(グイホアガオ)

桂花で作る甘い伝統菓子。粉を固めたようなものから、ゼリー、米粉や小麦粉を使用したものまで、地方によって様々です。秋の節句や祝いの席に供されます。

中国西安にある回族の方が暮らす地域で見られる「桂花糕」。(画像:adobestock)

桂花陳酒

白ワインに桂花を漬け込んだ甘いリキュールで、古くから宮廷で愛されたお酒。

中国では「香りを食す」文化があり、桂花はまさにその代表格。
一方、日本でも近年ではキンモクセイジャムや紅茶ブレンドなど、香りを楽しむ食品が注目されています。

参考:ロッテ 世界の郷土菓子を巡る旅「桂花糕〔中国〕回族街の“カステラ”」
https://www.lotte.co.jp/entertainment/shallwelotte/product/world/osmanthus/

香りが運ぶ、季節と記憶のぬくもり

キンモクセイの香りは、「秋の訪れを知らせる香り」として多くの人に親しまれています。子どもの頃から毎年同じ季節にこの香りを感じてきたため、記憶の中で秋の風景や思い出と自然に結びついているのです。

秋の香りの定番となったキンモクセイ、最近では季節限定の香水として見られるようにもなりました。(10年くらい前まではあまり多くなかったように思います)

フレグランスのキンモクセイの再現度は様々ですが、メーカーによっては他の香りとのかさね付けで楽しめることも香水の楽しみと言えます。 筆者の個人的なお気に入りは「ローズ系」との合わせ技です。秋が深まって冬に向かうまで、甘すぎない温かい香りになります。

ストレートな甘さのオスマンサスに、ローズで渋みをプラス!

まとめ

秋の訪れとともに香るキンモクセイ。その起源は中国古代の伝説にまでさかのぼり、香りとともに文化・信仰・食生活に深く根を張ってきました。
日本では観賞や芳香を楽しむ木として広まりましたが、ルーツをたどれば「吉祥の花」「栄誉の香り」として大切にされてきた存在です。

今年の秋、街角でふと香りを感じたら——
遠い昔、月の宮に咲く桂の木へと思いを馳せてみるのも、趣のある楽しみ方かもしれません。

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