セミは害虫?知られていないセミの生態と果樹の被害

セミは害虫?知られていないセミの生態と果樹の被害

セミは害虫?知られていないセミの生態と果樹の被害

8月も終わりに近づき、今年もついに筆者の家の玄関にセミ爆弾が現れました。
セミ爆弾(セミの生き死に)の見分け方は、脚が開いているときはまだ生きており爆弾として機能し、逆に脚が閉じている場合には既に死んでいることが知られていますが、人間の目の高さから見分けることはなかなか難しく、夏の終わりの天然の肝試しとさえ言える存在です。
また鳴き声が大きく騒音と感じられるため害虫ではないか?という意見も少なくありません。しかしそれにも増して害と言える実害が果樹園に発生しており、本記事で紹介させていただきます。

筆者は虫が苦手なため、本記事は写真少なめでお送りします。

一週間しか生きられないって本当?

セミと言えば、まずこの疑問だと思います。
セミは生涯の大半を地中ですごし、成虫となり地上にでてからは1週間しか生きられないという話を聞いたことがあるのではないでしょうか。
セミの種類にもよりますが実はそんなことはありません。実際にセミに識別番号をつけ放ち、再捕獲する実験を行うと、最長で1ヵ月程度生きている個体もいるという結果が得られています。
統計的・平均的にはセミの寿命は2週間前後、もちろんその中に一週間程度で力尽きるセミも少なくないと言うのが、この話の結論のようです。

大きな声は繁殖活動のため

セミが大声で鳴く理由、きっと多くの方が想像がついているのではないでしょうか?生物の特徴というのは生存・繁殖のための発達したものが多く、セミも例外ではありません。

■大きな声でメスを探す(呼ぶ)

セミは主にオスが大きな鳴き声を上げます。メスに自分の居場所を知らせることで、繁殖活動を行うパートナーを探すためです。セミは成虫の寿命は短く、地上に出る目的自体が繁殖の為と言われています。
そのため声の大きさはアピール力そのもの。セミの声は実に100デシベルを越えることもあるそうです。100デシベルは電車の通過音と同等と言える大きさの音です。

■お腹を振動させて音を出している

セミの大きな声はどこから出るのか?実は、お腹を激しく振動させて音をだしていることが知られています。セミのお腹には「鳴器」とよばれる大きな音を出すために進化・発達した器官があり、それを使い大声を上げています。まさに腹から声を出すというやつですね。

セミは害虫?農業被害も深刻化

この記事の本題となりますが、実はセミが引き起こす果樹の被害というのも深刻になっています。
害虫という言葉は非常に難しく、公式にはセミを害虫として認定しているものはありません。ただ事実として、セミは農業被害を生む昆虫の一種です。セミの大量発生は果樹農家、特に梨農家にとって頭を悩ませる問題のひとつです。
セミのイメージから多くの方が騒音被害を考えると思いますが、実はそうではなくセミの及ぼす最大の問題は「木に産卵する」という点です。卵から孵ったセミの幼虫は根元の地中へと潜り、その木の根から養分を摂取します。このことが果樹へ与える悪影響は容易に想像できると思います。

セミは、クヌギやカシなどの広葉樹を好みますが、中でも特に梨を好む傾向があり、梨の木にはセミが多く集まりやすい理由があります。

■セミの食料は樹液

セミの成虫の食事は主に「樹液」です。そのため、当然ながら木にとまります。
口器で木の皮を少し削り、その部分から樹液を吸います。セミが吸う樹液とはもちろん木が成長するための養分です。数匹程度が吸うだけであれば大きな問題にはなりませんが、大量に取りつくと木へのダメージが深刻化します。
また、地上に見えている成虫だけでなく、セミの幼虫も木の根から吸う樹液を主な食べ物としています。当然ですがセミの幼虫の移動できる距離は決して大きくありません。
多くの場合、セミは生涯の大半の間、同じ木から養分を取り続けているのです。

セミは梨の木が好き

中でもセミは梨の木に集まりやすい習性があります。特に「アブラゼミ」や「ミンミンゼミ」などの種類は梨の木が好きで、その周りで見かけることが非常に多いです。梨の木はセミにとっては理想的な条件を持っていることがその理由です。

好きなのは梨の実ではなく、幹や枝の方…

■梨に集まる理由①:樹皮が柔らかい

セミは樹液を吸います。そして木の中に産卵を行います。
梨の木の皮は比較的薄くて柔らかいため、セミが食事しやすく産卵しやすい木と言えます。セミは木の枝や幹に卵を産みつける際にも木の皮を削ります。もし木の表面が厚く硬ければ、セミの力ではその木に産卵を行うことはできないでしょう。

■梨に集まる理由②:樹液が豊富(梨が実る時期)

セミが梨に集まるもう一つの理由は、セミの成虫の活動時期と梨が実る時期が重なっていることです。
セミは直接果実を食べることはありませんが、樹液を吸うとともに木の中に産卵し、幼虫は木の根元に落ち、地中の根から樹液を摂取します。
セミの産卵期にちょうど豊富な樹液を蓄える梨は、セミにとって都合の良い場所だと言えるのです。

■梨に集まる理由③:木の根元で幼虫が暮らしている

上記のようにセミは木の中に産卵し、幼虫はその木の根元に落ち、地中で生活します。地上に出てくる際は必然的に産卵場所の近くで羽化することになります。
羽化するとそこには実りを迎えた梨の木があり、またそこに産卵する。この繰り返しが起こることも梨にセミが集まる大きな要因です。

■梨農家でとられるセミ対策

セミから果樹を守る方法として、以下のような方法を実践している梨農家さんもあります。
ただいずれにしても手間とコストがかかることに悩まされます。

1. 木の皮を全て剥くと
木の皮を剥くと、セミは脚を木にひっかけることが出来ず、木にとまることが出来なくなります。結果として木への産卵を防ぐことに繋がります。

2. 殺虫剤を使用する
何だ殺虫剤でいいのかと思うかも知れませんが、セミは害虫として認定されていないため「セミ用の殺虫剤」が存在しません。そのため別の害虫を対象としながらセミに効く殺虫剤を使用する必要があります。ハチなどに用いられる多くの殺虫剤はセミには効かないことも駆除の難しさに繋がっています。

逆転の発想?セミがふるさと納税の返礼品に!

セミによる被害を紹介してきましたが、セミが人気のある昆虫であることも事実です。
セミの鳴き声は夏の風物詩のひとつと言われています。そのように生物としても人気がありますが、その一方で昆虫食としても注目されています。
大阪府枚方市では「ふるさと納税の返礼品」としてセミが採用されたことが話題を呼んでいます。セミ食が人気を博せば、農園に大量発生するセミの評価も変わるかもしれません。

参考:朝日新聞「セミをふるさと納税の返礼品に~」
https://www.asahi.com/articles/AST8T2RNCT8TOXIE02KM.html

地球温暖化によりセミが減っている?

農園がセミに悩まされる一方で、夏に聞こえるセミの鳴き声が減っている、そう感じている方も多いかも知れません。これには地球温暖化に関する二つの事象が関係しているようです。

■急激な気温上昇により羽化できない

野菜や果物の種に発芽するための適温があるように、セミにも幼虫が成虫となる「羽化」のための適温が存在します。
幼虫時代は地中で暮らすセミにとって地温は非常に大切です。通常18~23℃程度の地温がセミの羽化には適していますが、近年では梅雨明けから一気に気温が上昇し35℃を超える酷暑が続きます。
この異常ともいえる急激な気温上昇により、羽化するための適温となる期間が非常に短くなり、羽化のタイミングを逃してしまうセミが多くいたそうです。

暑すぎる・寒すぎると実らない植物があるように、セミの羽化にも適温が。

■猛暑により活動できない

気温が高すぎると活動に支障をきたすのは人間もセミも同じです。
比較的暑さが得意であり30℃前後で活動が活発となるセミも、連日35℃を超えるような暑さでは日中での行動が難しくなります。
もともと成虫の期間の短いセミです。体力の消費を抑えるために猛暑下では鳴くことをやめ、朝や夕方での活動を増やしているとも考えられています。

しかし、上記のような活動の制限がかかっているにも関わらず、主に梨園におけるセミの大量発生は後を絶ちません。果樹園は緑が多く日除けとなることから、逆にセミが集中してしまうのかもしれません。

まとめ

日本木材保存協会様のコラムの中で「セミは樹木害虫というより、農園芸害虫となりうる」という一文が紹介されていましたが、今まさにこの問題が顕在化していると言えるのかもしれません。
セミに限らず、普段は意識することがなくともシチュエーションによっては害の側面が強くなる生物は多くいると思います。そして、その逆もまた然りなのではないでしょうか?
今までの印象に囚われず色々な角度からその生物を見てみると新たな発見があるかもしれませんね。

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