【映画無限城編大ヒット!】胡蝶しのぶと藤の毒|鬼滅の刃の植物学
大ヒット中の映画『鬼滅の刃 無限城編 第一部 猗窩座再来』。
原作を読んで展開を知っていても、胸が締めつけられるようなシーンの連続で、観ているこっちが「俺はつらい、耐えられない」と言いたくなる…そんな、涙なしでは観られない作品でした。戦闘シーンは大迫力かつ流麗。東京都並みに広大な無限城で戦うキャラクターたちの勇姿は、ぜひ映画館の大スクリーンで観賞してほしい仕上がりです!
ちなみにパンフレットは通常版1,000円、初回限定版1,800円でした。店員さん曰く表紙に違いがあるとのことで、内容にはほとんど差がないようです。

このまま8,000文字くらい語りたいところですが、いちファンの感想はこの辺にして──
作中で“鬼を寄せつけない植物”として登場する「藤の花」が、今あらためて注目を集めています。
実はこの藤の花、日本の文化や自然と深く関わってきた植物なんです!
この記事では、藤の花の歴史や種類、毒性、そしてちょっと意外な食べ方まで、農業ブログならではの視点でご紹介していきます。
藤の花とは?日本での歴史と文化
藤(ふじ)は、マメ科フジ属のつる性植物で、古くから日本人に親しまれてきました。
万葉集には、なんと26首もの藤の歌が登場します。やわらかな花房が風に揺れる姿は、まさに「もののあはれ」。さらに、平安時代に最も位の高い色とされた紫色をしていることから、「高貴な花」としてのイメージも定着しています。
また、万葉集の一首にはこんな歌も。
「大王の塩焼く海人の 藤衣なれはすれども いやめづらしも」
ここで詠まれている「藤衣(ふじごろも)」とは、藤の蔓の繊維で織った布で作られた衣服のこと。塩職人が身に着けていたもので粗末な着物ではありますが、藤の繊維は塩分に強いという特性もあったようです。
棚仕立てで観賞用として育てられることも多い藤は、見た目の美しさだけでなく、実用性も兼ね備えた植物なのです。

藤の種類と特徴
2. 藤の種類と特徴
日本で代表的な藤には、以下の4種があります。
◆ノダフジ(日本の固有種)
右巻きのつる。関東以西の平地に多く、長い花房が特徴で長さが1mになる品種も。花の紫色が濃い。
◆ヤマフジ(日本の固有種)
左巻きのつる。山地に多く分布。花房はやや短め(10~30cm)で、色もやや淡い。
◆シナフジ(中国原産)
右巻きのつる。ニオイフジとも呼ばれ香りが強いものが多い。日本には昭和に入って輸入されたが、あまり多くは見られない。
◆アメリカフジ(北米原産)
つるがあまり伸びないため藤棚を作る必要がなく、鉢植えでも栽培できる。花房が短く、日本のフジとは見た目が異なる。
鬼滅の刃にでてくる藤襲山(ふじかさねやま)の藤は、少なくとも江戸時代からあった(※)ことから、ノダフジかヤマフジの可能性が高いです。山に生えているのでヤマフジなのか?花房が大きいのでノダフジなのか…?もしつるの巻き方を見ることができたら判断できますね!
(※)「年号が変わっている!!」でおなじみの手鬼は慶応年間(1865年~1868年)に鱗滝左近次にとらえられて以来、藤襲山に囚われていました。

藤は毒がある?安全な見分け方
「美しい花には毒がある」と言いますが、藤もその例に漏れません。
特に種子(実)や莢、樹皮には有毒成分「レクチン」「ウィステリン」「シチシン」が含まれており、誤って食べると嘔吐や下痢などの中毒症状を引き起こします。
【注意ポイント】
・小さなお子さんやペットがいる家庭では、手の届かない場所に
・種やさやは食べない
・野山に生えていても採取・食用にしない
藤の種子には、レクチンやシチシンといった有毒成分が含まれているとされています。レクチンは加熱によって無毒化されますが、シチシンをはじめとする他の成分については、詳細な研究や安全性に関する情報がまだ十分とはいえません。現在のところ、藤の種子は食用として一般的に利用されておらず、安全性が確立されていないため、無理に食べようとせず観賞を楽しむにとどめるのが賢明でしょう。
また、レクチンは多くのマメ科の植物に含まれる成分のため、食用に流通している豆であっても必ず加熱調理して食べましょう。
そんな「豆」といえば、節分で鬼に豆を投げる風習がありますよね。実はこの風習、豆には「魔を滅する=魔滅(まめ)」という語呂合わせに由来するとも言われています。また、「拾い忘れの豆から芽が出ると縁起が悪い」とされ、わざわざ炒った豆(炒り豆)を使うのが昔ながらの習わしです。
強い鬼に、現実の豆(やその成分レクチン)が効くのかはさておき。人々が長い歴史の中で、豆に「邪気を払う力」を見いだしてきた背景には、もしかするとこうした植物の毒性への本能的な畏れも関係しているのかもしれませんね。
蟲柱・胡蝶しのぶと藤の花
鬼殺隊の蟲柱である胡蝶しのぶさんですが、小柄な体格ゆえ、鬼の首を切断するだけの力がありません。しかし突きの威力に優れており、「突き技×毒使い」という独自の戦い方で鬼を倒します。また、鬼を殺す毒は自ら開発しており、自分のことを「ちょっと凄い人」と表現しています。 花のように可憐なしのぶさんは、作中のキャラクター我妻善逸から「顔だけで飯食っていけそう」と言われるほどの美貌を持っています(やや失礼な表現ですが)。そんな彼女が使う毒は藤の花から抽出されたもの。さらに「蟲柱」という肩書きからも、どこか毒や薬を連想させます。

毒を持つ虫の中には、花から毒を取り込んで身を守る虫も存在します。 ヒョウモンエダシャクというきれいな蛾は、有毒植物であるレンゲツツジを幼虫期に摂取し自分の体に毒をつくります。花から毒を作り出すちょうちょ(蛾)…藤ではないですがしのぶさんを思い出しちゃいますね!

ちなみに毒で有名なフグも、ヒトデや海藻などを食べた際に摂取した毒を体に蓄積します。しのぶさんの技が魚の呼吸・河豚ノ舞とかだったら、かなりイメージが違っていたかもしれません。
実は食べられる?藤の花の食べ方と注意点
「毒があるのに!?」と驚くかもしれませんが、藤の花自体は、きちんと処理すれば食べられるとされています。大分県の宇佐市、山形県の高畠町などでは、天ぷらや酢の物として食べられるそうです。
【藤の花の食べ方例】
・天ぷら衣をつけてカラッと揚げる
・花を熱湯で湯がき、甘酢と和える
※加熱時間などを間違えると危険なので、食用にする際は詳しい知識がある方に教わるか、市販の食用花を使用してください。
参考:宇佐市「フジの花の天ぷら」
https://www.city.usa.oita.jp/sougo/soshiki/16/innaishisho_service/1_2/8/3531.html
参考:高畠町観光協会
https://takahata.info/log/?l=74776
藤を見るならここ!各地の名所
小さな公園や寺の一角にもよくある藤ですが、名所で観賞すると圧巻です!藤に特化した名所をご紹介します。名所は人手が多く込み合うこともありますが、藤の花は見上げて鑑賞するため、混んでいても視界が良好な点もおすすめポイントです♪
◆岩手県 藤島のフジ
藤島のフジは1938年には国指定天然記念物に指定された、樹齢数百年以上ともいわれる藤です。一般的な藤棚の藤とは違い、高さ20mほどの迫力ある木です。もともとはカツラの樹に絡みついていたものだそうです。(現在カツラの樹は枯れて、藤は鉄骨で支えられています)
参考:一戸町観光協会サイト
https://www.ichinohekankou.jp/sightseeing/history-2/fujisima-2/
◆栃木県 あしかがフラワーパーク
日本中の藤の名所のなかでも筆頭の施設です。
毎年、藤が見ごろを迎える4月中旬~5月中旬ごろには樹齢160年を超える巨大な藤を含む、350株以上が咲き乱れる「藤まつり」が行われます。
筆者も一度行ったことがありますが、紫、白、うす紅、黄色など様々な色の藤の花がとても良い香りで、風になびくさまが夢のような場所でした。ライトアップされる夜が特におすすめです。



公式サイト:あしかがフラワーパーク
https://www.ashikaga.co.jp/
◆東京都 亀戸天神
江戸時代から知られる藤の名所で、なんと歌川広重も「名所江戸百景 亀戸天神境内」として浮世絵に残しています。現在も100株の藤が見られる、都内随一の規模です。 また、亀戸天神すぐ近くにある「船橋屋」のくず餅も名物です。こちらのくず餅は葛粉ではなく小麦粉デンプンを発酵させたものです。白くてむっちりとした食感でおいしいですよ!江戸時代から親しまれる藤の花とくず餅、一緒に味わってみてはいかがでしょうか。


藤の開花情報も掲載されている船橋屋さんのリンク
https://www.funabashiya.co.jp/fuji/
◆愛知県 尾張津島 藤まつり(天王川公園)
4月中旬から上旬に開催される「尾張津島藤まつり」では、会場の天王川公園に、長さ275m、面積約5,000平方メートルの藤棚があります。夜にはライトアップがあるほか、藤棚の下に流れる疎水(そすい)によって水面藤の花が映ってとてもきれいです。
愛知県の公式観光ガイドAichiNow
https://aichinow.pref.aichi.jp/spots/detail/74/
◆滋賀県 正法寺(藤の寺)
正法寺というお寺のそばには、樹齢300年ほどにもなる大きな藤の古木が5本あり、「後光藤」と呼ばれています。花房は1m以上にもなる大きな房で濃い紫、藤棚は45mと圧巻の大きさです。また、本堂横のすぐそばには、国の重要文化財に指定されている石造宝塔もあるため、あわせて拝観されるとよいでしょう。
滋賀・琵琶湖観光情報
https://www.biwako-visitors.jp/spot/detail/544/?active=basic
◆福岡県 河内藤園
22種類もの多様な藤の花、約1,000坪もの広さがある大藤棚、110m及ぶ長さの藤のトンネルなど、見所満載の藤の名所です。公式サイトのBLOGには藤の剪定のようすなども掲載されているため、自分で藤を育てようと考えている方も参考になると思います。

河内藤園公式サイト
https://kawachi-fujien.com/introduce/
◆広島県 せらふじ園
GW頃に咲き誇る藤の数はなんと1,000本!期間限定のライトアップや、かわいらしいルピナスと一緒に咲く時期の「ふじとルピナスまつり」など、せらふじ園さんならではの魅力がたくさんあります。また、授乳室やおむつ替えスペースがあり小さい子どもとお出かけしやすいほか、ペットの同伴入園も可能です。
せらふじ園公式サイト
https://sera.ne.jp/sf/
鬼滅ファンにも伝えたい藤の魅力
『鬼滅の刃』では、鬼除けの象徴として描かれる藤の花。
ファンの中には「育ててみたい」「花を見てみたい」と思う方も多いはず。
ただし、実際の藤は手入れが必要なつる植物で、伸びすぎると周囲の木や構造物に絡みついてしまうこともあります。
育てる際は、棚仕立てやアーチ、パーゴラなどを利用して美しく管理しましょう。花の開花時期は4~5月頃と短いため、タイミングを逃さず観賞するのがおすすめです。

古くから日本人に愛されてきた藤の花。
『鬼滅の刃』をきっかけに注目が集まる今こそ、藤の自然美や文化的な背景に触れてみてはいかがでしょうか。
ぜひこの機会に、藤の花について少しだけ詳しくなってみませんか?