もやし安すぎ問題!なぜ少しの値上げがこれほどニュースに??
野菜や果物の価格は日々変動しています。季節によっても異なりますし、その年の収穫量にも大きく左右されています。昨年に比べ、先月に比べ数十円~百数十円高い、という話も決して少なくありません。中でもお米の価格上昇は、2025年を代表するニュースのひとつと言えると思います。
年末発表される今年の漢字に、トランプ関税、政府備蓄米などから「米」が選ばれたとしてもなんら不思議ではないでしょう。
そんな、頻繁に上下を繰り返す食品価格の中で、わずか数円~十数円の値上げがニュースになる野菜があります。それが、「もやし」です。
「もやしの値段が上がった…」今年もこのニュースが多くのメディアで取り上げられています。なぜもやしの値上がりはこれほど騒がれるのでしょう?それ以前にもやしって安すぎると思いませんか?

もやしについて
まず「もやしとは何か?」です。もやし知らない、食べたことがないと言う人はそういないと思います。しかし「もやしって何?」と聞かれると意外と答えにくいものではないでしょうか?
■もやし=豆。「もやし」という野菜は存在しない。
実は「もやし」という名前の植物、野菜は存在しません。
豆類の種子を水中で日光に当てずに発芽させたものが「もやし」と呼ばれるものです。ですので「もやしの正体は豆」という事になります。
色々な豆からもやしが作られています。中でも大豆もやしは、日光の下、土に植えればやがて枝豆になり、更に成長すると大豆になります。豆ともやしは同じ植物なのです。

■「価格の優等生」「価格のバロメータ」
もやしは、その販売価格から色々な呼ばれ方をされています。
特に有名なのは「価格の優等生」や「価格のバロメータ」などでしょうか。実はもやしは長年にわたり大きな値段の変動がない非常に珍しい野菜です
実はこれこそが「もやしの値上げがニュースになる」要因です。値段があまり変動しないからこそ、値上げの際には「物価高の象徴」として取り上げられます。
さらに、もやしは価格が安定していると言うだけでなく、非常に安い価格で販売されている野菜です。
その価格の安さから「家庭の最後の砦」とも呼ばれています。そのもやしの値上げは家計への影響が大きいと言う点も、値上げが騒がれる理由のひとつと言えます。


もやしが安い理由は?
多くのスーパーでもやしは1袋200gで販売されていますが、多くの方はその価格として25~40円くらいをイメージすると思います。
例えばきゅうりは2025年7月現在100gあたり50~90円程度が一般的な価格です。対し、もやし100gはわずか15~20円です。何故もやしはこれほどに安いのでしょうか?
■栽培から10日程度で収穫できる
もやしが安い理由のひとつは「成長の速さ」です。
もやしは栽培開始からたった一週間~10日程度で食べられる大きさに育ちます。他の野菜、例えばきゅうりであれば種から育てた場合に収穫まで約50~60日程度かかります。苗からであっても30~40日が必要です。
育生にかける時間的コストが圧倒的に短い。これがもやしの価格が非常に安い一つ目の理由です。
■もやしは工場生産が可能
他の野菜と違い、もやし栽培は土も日光も必要としないため工場(屋内)で大量生産ができることが、もやしの価格が安い二つ目の理由です。水だけで育ち、肥料も必要ありません。さらには密集して栽培できるため、狭いスペースで大量に作ることができます。
もやしは工場内で温度管理され作られるため、季節や天候の影響を受けることもなく安定供給が可能であるため、急激な価格の高騰もありません。
もやしの工場生産の過程について、株式会社上原園様のYouTube動画が非常にわかりやすかったのでご紹介させていただきます。3分ほどの動画ですので興味を持たれた方は是非閲覧してみてください。工場ではこのようにもやしが作られています!
以上はもやしが安い表向きの理由、というか理論的にそうだよね?という話になります。
しかし、もやしが安い「本当の理由」は別にあります。
もやしが安いのは日本だけ?
もし上記のように「もやしは簡単に作れる」がもやしの価格が安い理由であるならば、世界的にもやしは安くあるべきです。しかし、実はそうではありません。
もやしが安いのは日本だけ…とは言いませんが、先進国の中では日本は極めてもやしの価格が安い国です。もやしが安い他の理由の前に、世界のもやしの価格を調べて行きたいと思います。
■世界各国のもやしの価格
世界各国のもやしの価格相場を比較してみたいと思います。
もやしは日本国内でも地域によって価格差があるため東京23区での相場を記載します。国内では長野が最も安く、沖縄が最も高い傾向にあります。
国名 | 1kgの価格(日本円換算) | 200g(1袋)の価格 |
---|---|---|
日本(東京23区) | 178円 | 35.6円 |
アメリカ | 1,040~1,700円 | 280~540円 |
ドイツ | 380~540円 | 76~108円 |
フランス | 280円〜530円 | 56~106円 |
イタリア | 560円〜1,270円 | 112~254円 |
韓国 | 255~280円 | 51~56円 |
マレーシア | 150~260円 | 30~52円 |
ベトナム | 495円 ~ 830円 | 99~186円 |
このように欧米でのもやしは日本の数倍の価格で取り扱われています。逆に価格の安い地域で言えば韓国やマレーシアなどアジア系の国が挙げられます。これらの国は価格だけを見れば日本と肉薄しているとも言えます。
しかし日本のもやしの驚愕すべきは、この価格帯の商品ですら「ジャパニーズクオリティ」を求められ、それをクリアしている点にあります。
■安いのに「ジャパニーズクオリティ」
ジャパニーズ・クオリティは、日本製品や日本のサービスに対して「品質や安全への信頼性が優れている」という意味合いで使われる言葉です。食品・工業製品ともに、国産のものが好まれる傾向にあります。
日本のもやし工場は、海外に比べ「衛生・管理レベル」が高く、ほぼ無菌に近いレベルで生産されています。また、当たり前のように酸化防止のための脱気包装も施されるなど、非常に高い品質で作られています。日本人が食品に求める当たり前は、世界的にはあまり当たり前ではないのです。

もやしが安い「もうひとつの理由」
少し話がそれましたが、日本のもやしは高品質な上、世界的に見てもとにかく低価格です。
もやしが栽培しやすい野菜であることは前述のとおりですが、日本のもやしが安いのにはもうひとつ理由があります。
■もやし、それは安売りの象徴
例えば新しいマンションなど不動産の広告を見ても、「○○万円から!」のように、特定の部屋だけが安く設定され、大きく取り上げらているケースは少なくありません。
もともと価格が安かったもやしは、スーパーでの「目玉商品」として掲載されることが非常に多くなりました。「一袋20円!」のような激安商品は大きなインパクトを与えるからです。
特に2008年のリーマンショックの際には、その価格から人気が急上昇し、消費量も急増しました。「もやしが安い店は他の商品も安い」というイメージをつくるための広告的な側面がもやしにはあります。
■安くて当然?消費者のイメージ
上記のように、もやしは長年「安さの象徴」として扱われてきました。そしてその安さから「家庭の最後の砦」とさえ呼ばれています。
しかし、こういった背景の中、「もやしは安いもの」というイメージが消費者のイメージとして定着して行きました。安ければ買い、高ければ買わない。その結果、実際に「値上げをすると売上が下がる」現象が全国各地のスーパーで起き、価格があげられない状況が生まれています。

もやしの生産者が減っている
安いのがもやし。そうは言ってもさすがに安すぎます。
幼少期あまりにもお世話になった、あの「うまい棒」も15円に値上げされた現代において、これは本当に生産コストに見合った価格なのか不安になる安さです。
■生産コストは急増、生産者は激減。
生産コストが安いと言っても、原料となる豆や電気代などの工場の維持費は昨今の物価上昇に伴い上がり続けています。原料のひとつ「緑豆」の価格だけを考えても、20年で実に4倍にまで高騰しています。
その結果、60年前には1000社以上あったもやし生産者の数が、2024年には100社を下回るまでに廃業が続いています。
もちろん安すぎて採算が合わないためです。
参考:もやし生産者協会「もやし生産者の窮状にご理解を!」
https://www.moyashi.or.jp/
私も一消費者としては、もやしに限らずどんなものでに安いに越したことはないと思っています。
しかし特定の商品だけが限度を超えて安く取扱われる現状にはやはり違和感を感じます。
本記事をここまで読んでくださった皆さんが、少しでも「もやし」への関心を持っていただけたら幸いです。